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2020年3月 7日 (土)

春光駘蕩筑豊肥4:牧のうどん・開花堂・まる八ラーメン・川島豆腐店・博多の駅弁

博多と唐津で食べたものを順に。

【牧のうどん】
博多っ子はラーメンよりもうどん好きが多いという話を聞いて、噂のダルダル麺が食べられるという博多バスセンター地下の牧のうどんに行く。昼には少し時間があるタイミングだったが、店内はほぼ満席。なるほど噂通りかもしれないと思わされる。

注文した肉ごぼう天うどんは、ムニュムニュした麺の風合いは面白かったが、出汁が甘だるくていただけない。東京人は無難にラーメンを食べた方が良いように感じた。
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【開花堂】
唐津でも和菓子を・・・と思って訪れたのがこちら。風格ある店構えだが店内はよく手入れがされており、季節柄雛飾りもあったりして実直に御商売に精を出してる雰囲気が漂って好感触。銘菓の「さよ姫」と季節の上生菓子を買って帰る。

生菓子は早蕨に菜の花きんとん。緑の発色に春の日差しを感じさせ、優美な風情もあって好もしい。味わいも春の日向のようにほっとする甘さで心和む。
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落雁である銘菓のさよ姫もパッケージに新味があっていい。
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唐津で束の間甘やかな時間を過ごしたいのなら足を運ぶべき店だと思う。

【まる八ラーメン】
ふじわらで飲んだ帰りの〆に伺う。家系ラーメンで育った身としてはいつも博多で食べる豚骨ラーメンはガツンとしたインパクトに欠けるな・・・と思っていたが、ここのものは野性味あふれるスープでその荒々しさが心地よい。ようやく念願叶う豚骨ラーメンに出会えた気がする。
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また、豚骨系を食べた時に感じる化学調味料の後味の悪さもほとんどなくその点も嬉しく感じた。飲んだ後の〆に是非。
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【川島豆腐店】
朝食は三度目となるこちらで。相変わらずざる豆腐は濃厚だし、厚揚げはサクトロッだし、豆腐のうずめ粥の出汁も程が良く、実に完璧な朝の幕開けとなった。KARAEの目の前だから、ホテルに泊まった際はここでの朝食を見逃す手はないと思う。
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↑豆腐のうずめ粥。粥と言っても押し麦も入っていてさらさら頂ける。

【やま中と折尾のかしわ飯】
時間が無くなって昼食を断念し、博多駅で駅弁を買い込み列車内で食べた。折尾のかしわ飯が食べたかったが、生憎売り切れ。「おかず付きの豪華版ならあります」とのことで、それを頼むと駕籠を模した二段重の仕様。
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ただなりは立派だが、おかず類はお値段相応のもので、かしわ飯単品の方が個人的にはありがたかった。
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「やま中」の寿司の折詰は手堅くまとめてあってなかなかのもの。
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鯖の棒寿司に期待していなかったが、身に厚みもあって酒を用意しなかったことを悔いる出来。次回はそういう失態が無いようにしたい。

2019年9月22日 (日)

白露冷涼那須湯治3:黒磯明治屋・那須烏山矢沢のヤナ

行きには黒磯界隈で喫茶と買い出しをした。

【カフェイリス】
本当は二日目の昼を買おうと隣のパン屋の方を覗いたが、「おふっ」と息が漏れる値段だったので購入は見合わせ、バスが来るまで隣のカフェで時間を潰す。生まれて初めてラテアートが施されたカフェラテを飲むことになったが、オジサンには照れ臭いだけだった。酪農が盛んな那須の麓だけにもう少し牛乳のクリーミーさが利いていてほしかったところ。
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【明治屋】
春に購入して上生菓子が良かったので今回も宿で食べようと「桔梗」と「萩の花」を購入。いずれもしっとりふかふかの餡で口どけもよく品がいい。こちらは是非温泉饅頭だけでなく上生菓子も味わってほしい店だ。
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帰りは那須烏山まで赴き、ヤナで鮎を食べて帰った。去年行ったひのきやは簗が設置されていなかったので、今度はそれが眺められるところがいいと探したところ、烏山駅11時22分着の列車に乗れば、30分発の市営バスですぐ近くの「滝田」まで行ける矢沢のヤナへ赴く。
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↑烏山駅前のロータリー。緑のバスが乗車した市営バス「馬頭烏山線」

まだ昼時には少し早い時間だからだいぶ余裕だろうと思ったら大甘で、食券を買う長蛇の列が出来ていて驚嘆するとともに覚悟を決める。
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押し寄せる客に人員が不足しているようで、入店して食券購入迄に25分、ビールは走り回る店員に直談判して30分、枝豆が来るまで45分、刺身は60分と全く遅々として進まないが、周りの地元民は慣れたもので根気強く待っている。
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それほどまでに旨いのかな・・・と思って食べた鮎の刺身は今しがたまで活きていたようで卓に到着と同時に口をぱくりと開けたくらいだった。そうして9月に入っているから魚体も大きく、身に厚みがあってなるほど今まで食べた中では一番の歯応えで旨味も強い。人気の訳はこれか・・・と思って、遂に店内の自販機のビールを買ってきて塩焼を待つ体制に。

この辺りから帰りの列車の時間との戦いも始まる。13時15分のバスに乗って13時39分発の列車に乗らないと、3時間半近く待ちぼうけを喰らう。焦る我々の前に鮎飯の焼きおにぎりが来たのは入店から70分後の12時55分。
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逸る気持ちを抑えつつかぶりつくと香ばしく焦げた米の薫りの深奥に焼鮎の香ばしさが忍んでいて、ごく品のよい出汁の風味と相俟ってすこぶる旨い。これは普通の鮎飯ではなくてこちらの方がずっと美味しい。

ここから焦れて焦れて堪らない時間が過ぎていき、遂に焼鮎が届いたのは入店から凡そ1時間半、13時12分過ぎ。
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もはやバスは諦めてタクシー会社に配車を依頼してから鮎にかぶりつくと、1匹ずつ串にさして炭火で丁寧に焼かれたものだから、皮はパリッとしていて身はふんわり。そこにじんわりと鮎の旨味と微かな脂の風味が漂って思わず家人と顔を見合わすほどに旨い。ハフハフとかじりついては温くなりかけたビールで流し込み、あっという間に胃の腑に収めた。これが食べられるから、皆じっと我慢の子で待っているのだなと得心する味わいで甚く感じ入った。なんとかタクシーに乗って列車にも間に合ったし、なかなか記憶に残る一食になった。
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那須は涼しく鮎が旨い秋分前後に行くのが一番だと改めて思わされた小旅行だった。
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2019年8月10日 (土)

日本橋アンテナショップ巡り

美々卯に行ったり、国立映画アーカイブで古い邦画をみたりと京橋にはちょくちょく足を運んだ。それで隣町の日本橋の状況を探ったら、各県のアンテナショップが揃い踏みしていたのでぐるりと回ってみた。

一等北にある日本橋ふくしま館には阿闍梨餅のフォロワーの中では至高の出来である三万石の「三千里」が置いてなくて残念。みえテラスは品揃えも豊富で、飲みなれた「瀧自慢純米大吟醸」も置いてあったが、これという品に欠きここもスルー。奈良まほろば館では柿の葉寿司があったので買ったが、米が乾燥していて今一つ・・・
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島根にほんばし館では松江の銘菓「若草」を買おうと思ったら売り切れ。ブリッジにいがたとここ滋賀はこじんまりとしすぎていて商品が少なくスルー。

ようやく目当ての品があったのは「日本橋長崎館」で、商品の展示がかなり上段の方まであって、どこかヴィレッジヴァンガードのように感じられて購買意欲をくすぐる。目当ての「カスドース」は入り口付近で発見。試してみたかっただけなので、二個入り500円のものが置いてあったのも有難い。
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帰って食べると、ザラメがまぶされたフレンチトーストといった感があるものの、想像よりは甘くなくさっぱりとしていて面白かった。
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色々回って一番良かったのは「日本橋とやま館」。工芸品の展示に地酒が楽しめるバーカウンターと食事処も備え、更には観光相談できるカウンターまである。それでいて空間を広くとっているからゴミゴミした感じはなく、ゆったり見て回れる。
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それに商品がいい。和菓子は「薄氷」というものを買ったが、これは池波正太郎の食道楽における師匠筋と目される小島政二郎が推奨文を書いている。小島といっても、今の世の中では知る人もほぼ皆無であろうが、この菓子を広く全国に紹介して店が盛業となった恩を忘れない気風が感じられて好ましく思う。
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湿気を防ぐために真綿にくるまれたそれは、口に含むとしゅるしゅる・・・と溶け出して、気づくと淡い甘みだけを舌に残して跡形もなく消えてしまう。なるほど薄氷とはよく言ったもので、その銘に偽りはない。最後にそこはかとなく切なさを覚え、その感じが寂びの残心を思い起こさせて趣深い。これは良い菓子を知った。
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それから「月世界」というのも買ってみたが、これまたふわしゅわっとした寂び系のもので、富山の人はこういう感じを甚く好むのだと知った。

酒のつまみには鯖の麹漬けを買ったが、程よい酸味と麹の旨味が相まってきりっと冷えた日本酒によく合って美味しい。これが500円というのは随分お得に感じた。
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富山と言えば氷見の鰤があるから、冬になれば同じく麹を使ったかぶら寿司もきっと旨いだろう。季節の愉しみが一つ増えたアンテナショップ巡りだった。

2019年7月 2日 (火)

津軽海峡北南22:おぐら・アマリリスしんこや

旅の最終日。雨に濡れながら弘前駅まで歩いてレンタカーを借り、大館方面へ向かう。昼は予め決めていた「おぐらや」で食べる事にする。

幹線道路沿いのこじんまりとした店だが、昼時だったので駐車する車で混雑していて、偶にしか車を運転しない自分にとってはヒヤヒヤもので車庫入れして入店。迷わず支那そばを頼む。
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シンプルなルックスの丼がほどなく登場。
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ささ濁りしたスープから醤油の香りが立ち上って胃を刺激する。香りほど醤油の味は強くなく全体にまあるい味わい。そこに自家製麵のツルシコ感が合わさって、バランスの良い一椀に仕上がっていた。メンマも叉焼も手堅い味で食後に化学調味料の味もせず、実直で旨いラーメンに出会えて嬉しくなった。
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【アマリリスしんこや】
大館は街のサイズに比して喫茶が充実していたのでどこに行くか悩んだが、和洋菓子を揃えたこちらの店の奥に喫茶コーナーがあるというので行ってみることにする。
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もはやアーケードを残すのみで商店はちらほらという一角に店はあったが、周囲の状況をものともせずに多種多様な菓子が並んでいた。もともとはしんこ餅を名物としていたようだが、今は洋菓子が主力のようだったのでレアチーズケーキを頼む。
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直線がピシリ決まり白・黄・紫の色どりが涼やかな一品で味わいはババロア感が強い。レモンの風味といい、子供の頃母親が作ってくれたヨーグルトケーキを彷彿とさせる味わいで懐かしい気持ちになる。

家人の頼んだチョコレートケーキも見目麗しく、コーティングされたチョコもたっぷりで美味しかった。
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店には引きも切らずお客が来てはソフトクリームやケーキや進物用の焼菓子を買っていて、いかに地元に愛されている店なのかが手に取るようにわかる。帰りに胡桃餅と薯蕷饅頭を買って帰ったが、胡桃餅は香ばしさとむっちりした食感のコントラストが後を引く一品だったし、薯蕷饅頭も品の良い甘さとしっくりとした口当たりを楽しめる優品だった。
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↑ご主人の名前を堂々記載しているところに矜持を感じる。
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末永く市民に甘やかな夢を見させる店であってほしいと願って店を後にした。

2019年6月30日 (日)

津軽海峡北南20:ル・ブルジョン・開雲堂・大阪屋

特に感銘を受けた個人的弘前スイーツ御三家を別に記すことにする。

【ル・ブルジョン】
オー・ボン・ビュータンで修業された方がやっているというのでアップルパイを買ってみる。開店早々に行ったのでパイはまだじんわり温かく、ほんのりバターが香って食欲をそそる。薄玻璃のようにシャクっと砕けるパイ生地は実に繊細な仕上がりで、中のリンゴのコンフィチュールとの相性もいい。後口さっぱりで口に油っこさが残ることもなくごく軽快な仕上がりで、これなら他の品も間違いないだろうから、あれこれ買えばよかったと後悔した。
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【開雲堂】
土手町の商店街に重厚な店舗を構えていて、一種のランドマークのようになっている。中はほの暗い明かるさに保たれていて、日本文化の隠れた功労者である陰翳を大事にしている姿勢が好ましく感じられた。和洋いずれの菓子も手掛けていて目移りしたが、ここは初心貫徹、七夕を題材とした「織姫」と願い笹を模った上生菓子を買って帰る。
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織姫は橙色と桃色を隔てる乳白色の嶺が天の川のように見え、そこにまぶされた砂糖の粒子が無数の星々を、そして金粉がひときわ輝く織姫星ベガを表現していて、二寸たらずの練切に小宇宙が見事に抽象化されているのに驚かされる。そして朝出来の新鮮なものだったようでふっくらとした餡は甘さの調子の品が良く、その口溶けの良さは出色だった。流石はそれと知られた名店の味わいで甚く満足した。

【大阪屋】
和菓子の老舗としては開雲堂と並び称される店だったので、弘前を発つ日に寄ることにした。創業から凡そ400年、京都でもこれに太刀打ちできる店はほぼ無いほどの伝統を重ねてきた店はやはり威容を誇る店構えで、金看板に店の矜持が伺えた。
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中に入ると名高い螺鈿細工の棚が見えて、鈍く放つ光の屈折に目も眩みそうになる。
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↑写真はネットから引用

上生菓子を二つ、それにここでしか買えない銘菓「竹流し」を購入。上生菓子はなんと190円と破格の御値段。雨露に濡れる紫陽花二題は、型取りしたものはしっくりと、きんとんのものはふかふかとした餡の具合でその違いが楽しめるのが嬉しい。
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濃いめに抽出した麦茶と一緒に頂いたら「梅雨空続きも悪くはないな・・・」と思わされたから、流石の仕上がりである。

大名物「竹流し」は、まあ江戸の昔はそうないもので驚かされたかもしれないけれども、蕎麦ぼうろが遍く流通している現代にあってはそうでもないだろう・・・と思ってひとかけ食べてみたら、絶妙の脆さといい、微かに立ち昇る蕎麦の香ばしさといい、ごく穏やかな甘さ加減といい、実に質朴な風味なのだが切ない気持ちにすらなる逸品だった。
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↑純白無垢の缶が高貴さを演出
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北の地の厳しい環境にあっても甘やかなひとときを楽しみたいという切実な思いがこの一菓に結晶したようにも思え、それを数百年と途絶えずに作り続けてきた店の凄味を知ることになった。もう一つの銘菓「冬夏」も素晴らしいということなので、必ず再訪して四百年の星霜を余すところなくこの身に併呑したいと思う。

2019年6月29日 (土)

津軽海峡北南19:弘前和菓子店めぐり

弘前はいい和菓子屋も多くて、その文化的豊穣ぶりが羨ましくさえ思えた。

【観世】
宿から近かったので初日散歩がてら寄ってみるとショウケースにずらっと上生菓子が並んでいて、その下の段にはこれも愛らしい干菓子の数々があり思わず「ほぅ」と感嘆する。

「雨上がり」との銘のきんとんはまさにその情景が眼前に広がるもので、丁寧な造りで美しい。そうしてふんわりとした餡の具合が心地よく、消え様も見事で実に美味しい。
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「爽楓」の心洗われる表現も美的感覚の鋭さを感じさせるもので一遍で気に入った。
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帰京する日に開店一番土産を買いに行くと、ご主人は奥で熱心に餡を丸めていて菓子造りに余念がない様子。朗らかな笑顔がチャーミングな女将さんにお願いして撫子と落とし文、それに干菓子の青紅葉と紫陽花を買って帰る。生菓子はやはりくどみがなく素直な甘さの餡がよく、干菓子も季節が感じられる趣深いもので感心した。
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小体な店でさりげなくこんな美味しい菓子を生み出していることに少し感動すら覚えた次第。

【双味庵】
弘大から土手町へ戻る道すがらに立ち寄って上生菓子を買ってみる。こちらは手広く菓子を揃えたなかなかの店構えで、季節にだけ焼くアップルパイも美味しいとのことだから、少し期待してしまう。しかし「瀧しぶき」「青梅」いずれの餡もねっとり感が強くて甘さが口に残ってしまう。造形は美しいだけに惜しい気がした。
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【三笠屋餅店】
名物の「あさか餅」はあんまり見かけない餅菓子だったのでどんな味わいなのか気になって、少し遠かったが自転車に乗って買いに行った。店内でも楽しめるようにはなっていたが、予定が詰まっていたので買って帰り宿でぱくつく。
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形としては阿闍梨餅に類似しているが、こちらは餅で出来ているからこの形を維持するのはなかなかの技術がいるように思う。そうして中の餡が大変に滑らかでかなり緩めの作りだから「どうやってこの餅の中に入れたのだろうか・・・」と?マークが脳裏をよぎる。

そうした製作の苦労はさておき、周りにまぶされた胡麻とあられ粉の香ばしさがぱっと口に広がった後、滑らかでくちどけの良い餡がするりと流れ込んできて、柔和至極の餅と渾然一体となるのだから、それは旨いに決まっている。もう少しこれを食べる腹を空けておくべきだったと後悔するくらいだった。次に訪問した際は、作り方の秘訣を聞きながらパクパクと何個でも食べてみたい気がする。
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【川越黄金焼店】
土手町の通りで百数十年愛され続けた弘前っ子のソウルフードだというので、ふじやで飲んだ後に寄って買って帰る。二人連れなのを見て「一個ずつ包もうか?」と気遣いをしてくれたが、この辺りのことがさりげなく出来るのが老舗たる所以なのかもしれない。

1個60円の黄金焼は今川焼とそんなに違わないのでは・・・と思ったが、あれとは違う。皮がふんわりもっちりとしていて、しかも白餡が甘やかに香って一口ごとに不思議な幸福感が味わえる。まさか1個100円に満たないもので驚かされるとは思わなかったが、これはいい。実にいい。飲んだ後でも全く響かない。流石は伊達に長く続いている訳ではないと感服させられた。
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2019年6月22日 (土)

津軽海峡北南12:シュトラウス・甘精堂・クレオパトラ

【シュトラウス・甘精堂】
青森に行く楽しみの一つは「シュトラウス」に再訪することだった。相変わらず豪奢な雰囲気を保っていて、判っていてもここが青森であることを忘れさせる位のものだから矢張感服する。
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前回の訪問時には品切れだった「アプフェルシュトゥルーデル」があったので迷わずそれを注文する。
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薄手の生地の中には林檎・干し葡萄・ナッツ類のフィリングがぎっちり入っていて、ゲルマン系の律義さを体現しているかのようだった。酸味と甘みと香ばしさ、それにシナモンの香り付けも程よくて絶妙の均衡を保っている。これには生クリームの利いたウィンナーコーヒーの円やかな苦みが丁度よく、ウィーンでの午後のひと時もかくあらんという完成度に甚く満足した。

階下に降りるとお土産用の廉価版シュトゥルーデルがあったので買ってみたが、こちらはアップルパイのスティック版という仕上がりで、青森土産として喜ばれそうな一品だった。
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ここに来て忘れてならないのはそもそもの経営母体である和菓子の甘精堂で、昆布羊羹で名を馳せているが店の片隅に美麗な仕上がりの上生菓子が置いてあったので買って帰った。「清流」は見事な透明感に加え、苔の表現と共に川の匂いを運ぶ青海苔が微かに忍ばせてあって、その心配りにも瞠目させられた。
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「涼風」の淡い色彩と情緒深いグラデーションも美しい。
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いずれも申し分ない出来で揺るぎない老舗の底力を見た思いがした。ここの上生菓子はもっと評判をとってもいいと思う。

【クレオパトラ】
今夜の宿であるアートホテル青森に向かって新町通りを行くと、終点近くにただならぬ雰囲気を放つ喫茶店があったので、当初予定した「マロン」をやめて翌朝その「クレオパトラ」へ行くことにした。

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重厚で装飾的な調度品は純喫茶らしさを感じさせるが、店名からエジプトやアフリカを想起させるオブジェも多数飾ってあって、兼高かおるの家にでも招かれたかのような気持ちになった。
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また京都のイノダ本店のように店内に坪庭があって、そこから採光されているから店構えの印象より随分明るく、朝露に濡れ青々とした草木を眺めて飲む珈琲には清々しさすら漂っていた。

朝食に頼んだミックスサンドは鮮やかな色合いで食欲をそそり、オムレツも固からず柔らかすぎず玄妙な仕上がりで朝から幸福な気持ちになる。
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トイレの装飾も特徴的で印象に残るものだし、そこここに念の入った見事な店だった。余談だがインスタグラムに随分当店の写真が載っていて、ここを放ってはおかない青森女子の成熟ぶりにも感じ入った次第。

2019年6月18日 (火)

津軽海峡北南8:ティーショップ夕日

函館に来たかったのには三つ理由があった。その内の競馬場に足を運ぶことと大沼へ行くことは果たして、最後の宿願である「ティーショップ夕日」に向かったのは夕方17時前。元町のバス停から船見町行のバスに乗って終点までいくと坂道で苦労することもなく店の至近まで辿り着くことが出来た。少し歩くと薄桃色の平屋が見えてきて、そこが「夕日」だった。
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眼前に函館湾が広がり、夕日を浴びながら水道を行きかう船の様子が眺められる。店内はごく静かで、ゆったりとこの黄金の刻を楽しもうという客が思い思いに窓外を眺めていた。
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家人は嬉野の煎茶、こちらはほうじ茶を頼んだが、家人の緑茶が完璧な抽出によってとてもコク深く、昆布のような旨味が感じられるのには驚かされた。いかに普段雑にお茶を入れているか、自然と反省する気持ちになる。
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それにしても深い味わいの茶を喫しながら飽くまで輝く海を眺めることが、ここまで心に安らぎをもたらすとは思わなかった。どういう状態になるのかといえば、心地よい春風と陽を受けながら、いつまでもいつまでもウトウトと微睡み続ける感じに近い。ひと時地上の極楽に揺蕩うことが出来た悦びは、なかなか得難いものがあった。僅か40分ほどの滞在だったが、私にとっての函館の風景といえばここで見た野の花やきらめく漣や風雪を耐えた建物の風合いということになると思う。幾久しく続いてほしい店だ。
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2019年6月17日 (月)

津軽海峡北南7:函館喫茶・パン・スイーツ

函館の喫茶・パン・スイーツをまとめて。

【美鈴珈琲】
函館にあっては老舗として名が知れているようで、よその喫茶店でも「美鈴珈琲の豆使用」との掛札を見かけたから、その実力は間違いなさそうだと思われ入店。最近新しく改装したらしくドトールやエクセシオールといったチェーン店風の内装で、純喫茶の重厚感はなく明るく清潔な雰囲気。本日のおすすめ「マンデリンオパール」をお願いしたら、なかなかキックのある苦みの後に澄み切ってキーの高い酸味がやってきて、重層的な味わい。流石の一杯で感心した。函館駅からも遠くないので、汽車待ちの際には重宝しそうだ。
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【ひし伊】
その昔石川啄木も通ったという質屋を改装した喫茶店。重厚な蔵造りの店内には考え抜かれた内装が展開していて居心地がいい。
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抹茶と和菓子のセットがあり、近くに名高い「千秋庵」があるからそこの生菓子が頂けるかなと思ったら、なんと店員の方がさささと生菓子を拵えて奉じてきたのには驚かされた。
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味わいと見た目は凡庸だったが、自作の菓子でもてなそうという心意気には感じ入った。
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【タイム】
自由市場で昼ご飯を食べて小休止しようと入ってみたら、席は満席でご主人は調理に忙殺されていたので、頃合いを見て珈琲を頼むと「あ、ランパスじゃなかった?ゴメンナサイ」と声をかけられた。どうやらクーポンで安くランチが食べられるようになっていて、その客が押し寄せていててんやわんやの状況だったらしい。そんな中、丁寧に入れたての珈琲を供してくれて有難かった。
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流石に薫り高く、苦みも丸味を帯びていてひっかりがなく美味しかった。ゆったりするには15時以降に行くといいのだろう。
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【ボンパン】
宿泊した「Hakoba函館」から3分ほどの立地だったので、朝飯用に買いに行った。
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店は朝7時から開店していて、直後に行ったら8割がたのパンは焼けており、実にいい匂いが店内一杯に漂っていて気分がいい。コッペパンに甘い豆の入った「豆パン」は素朴な雰囲気、バターの薫り高い「クロワッサン」はサクッと上出来で、胡桃とチーズのパンは上下がしっかり焼き上げられていてパリッとしていたのが新鮮だった。
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総じて手抜かりなくきちんとした味わいを楽しめて、日差しを浴びての朝食が大変美味しく感じられた。
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↑ホテルの屋上テラスで朝食。眺めも良く気持ち良かった。

なんとなればここでパンを買って、元町公園や倉庫街で港の景色を眺めながら朝食というのは、いかにも函館らしさを感じられて楽しい朝食になること請け合いである。お勧めしたい。

【富士冷菓】
歴史はかなりあるようだがこじんまりとした、しかしよく手入れされた店内にアイスクリームとシャーベットをたくさん並べていて、入るや否やどれにしようか嬉しい悩みに遭遇する仕組になっていた。シャーベットからは白桃を、アイスからはラムレーズンを選んで買って帰る。いずれも甘みがきつくなく穏やかで、さらりとしているので食べ終えた後の口がさっぱりしていい。この品格ある味が夏の短い北の地にあっても長く支持されて店が続いている理由なのだと感じた。
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2019年4月15日 (月)

東京から18きっぷで行く日帰り旅:東海道中花見酒2

昼からビールを呑み、うららかな春の日差しを浴びて微睡んでいる内に興津に着く。愛想のない合理一辺倒の駅舎がJR東海らしくて可笑しい。
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駅から南へ少し行ったところを走る東海道は整備されていて、昔日の面影は少ない。
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ただ目当ての水口屋址は塀が高く聳えていて、わずかに往時を偲ばせる。今はギャラリーとして縁の品々を展示しているが、流石皇室も宿泊するだけあって抱一や探幽の掛け軸があり、明治の顕官達の揮毫も数多ある。岩倉具視の書は素人でも達筆であることが感ぜられた。

阿房列車で宿の名を挙げるほど気に入りだった内田百閒のものもあるだろうとずっと探索したが縁の著名人にもその名はなく、偏屈な性格を忌み嫌われていたのか、全く形跡が残っていない。山の上ホテルが檀一雄の名を避けるのに似たようなことなのだろう。泉下の先生も「止むを得ないものは止むを得ない」としかめっ面でぼやいているやも知れぬ。
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さらに西に進んで西園寺公望終の棲家である坐漁荘も覗いてみる。百鬼園先生は何の感興も催さないと書いているが、名勝清見潟が埋め立てられた今となっては、猶更その感が強い。
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元々の建物は明治村に移築されて重要文化財に指定され、そこはよく考えたもので眼前に水景を臨める立地にしている。だから往時を偲ぶには犬山まで行かないといけない。まとまりのない中学生の自由研究のような資料展示にも些か気が引けてしまい、早々に辞去する。

帰りがけに揚げはんぺんが有名だという魚屋に寄ったら売切と不運が重なる。それでも最後の目的地、家康が人質時代を過ごした清見寺には立ち寄ってみる。
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門前を東海道線が横切っていることで有名な寺だが、全く人の気配がせず少し気味が悪かったので、庭をぐるりとしただけで帰ることにする。なお、柑橘類の名に「清見」とあるのはこの地に由来するとのことだった。

興津の街は御多分に漏れず閑散としているが、それでも街道筋に1軒、駅前に2軒和菓子屋があったので、その名も名物家で練り切りを買って帰る。数種あるとのことだったが、この日は桜しかなく少し寂しい。太陽の光が燦燦と降る土地柄だから発色が強い。造りはごくごく一般的なものだった。
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不完全燃焼のまま興津を後にし、百鬼園先生宜しくスイッチバックして新蒲原へ向かおうとしたところ、構内放送で「沿線火災によりダイヤが乱れ遅れが出ている」と流れてきた。こちらとは違って燃えるとこでは燃えているようだ。ここまでなんとか事故の類は逃れてきていたが、最後になって捕まってしまったかと諦め気分でホームに降りたら、すぐに列車が来て吃驚する。しかも朝夕並みに混雑していたのでより驚かされる。

遅れで各駅に溜まっていた客をたっぷり孕んだ列車は10分ほど行くと新蒲原に着いた。
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ここにある御殿山は桜山として知られているとのことで、時間つぶし方々花見をしようと思う。

誘導看板はあるものの、人通りはなく不安な気持ちのまま5-6分ほど行くと麓の神社に着く。
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そこには桜祭りの準備をする人が大勢集まっていて、その頭上にはほぼ満開を迎えた桜が咲き誇っていて安堵した。
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裏山を登っていくと海と街と桜が見えてなかなかの景色だったが、相当の難路だったので名物の吊り橋に行くことは断念して、途中の腰掛で済ます。誰も居らず閑静で、そよそよと風が吹き、木漏れ日も心地よく、まったく気持ちのいい春の日だ。この一瞬を求めて先月来、彼方此方を彷徨ってきたような気にもなる。
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長居すると桜の精に取り込まれてしまいそうだったので、下山して駅前まで戻る。ホームから拡声器の案内が漏れてきて、まだ列車の遅れは続いているらしかった。

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