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2019年4月12日 (金)

東京から18きっぷで行く日帰り旅:東海道中花見酒(1)

今春の旅も愈々千穐楽。どこが相応しいか検討を重ねた結果、矢張東海道にしようと決めた。これまで素通りしてきた街道沿いに残る別荘建築の見物方々、百鬼園先生ゆかりの興津水口屋へ足を運び、時期を迎えた桜を愛でてから初鰹と静岡銘酒を存分に堪能しようと思う。

川崎駅に予定より早く着いたら、一本前の大船行に間に合ったので乗り込むと、残る停車駅は横浜と戸塚だけだから乗客も少なくいきなり座っていくことが出来た。これは幸先がいい。大船で乗り換え、国府津過ぎでは秀麗な富士も見え、朝から随分気分がいい。
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小田原で降りて乗り換えの箱根登山鉄道には少し時間があるので、駅前の守屋パンへ行って昼食と土産を買う。流石に行列はなかったが、先頭の三十がらみの男が一々パンの特徴を店員に聞き、逡巡しきりで渋滞は発生していた。その後彼はコッペパンを選んだが、そこに塗るペーストの種類を一々聞き出し始め、ついに店員に愛想を尽かされていた。日本の将来は矢張昏いような気がする。
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↑初めて購入したフランスパン。あんパンの外側をたっぷり食べたかった宿願が叶う。

パンを買い込み乗り込んだ登山鉄道は最早日本人は皆無で隔世の感がある。一駅先の箱根板橋で降りて目的地である「老欅荘」へ向かう途上、旧街道に出てこれも有名な「内野家住宅」に遭遇する。
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運営を担っていたまちなみ保存会から「この3月末をもって一般公開は終了した」との掲示があり、ここにも日本の足腰の弱まりを見た思いがする。

そこから細い路地を少し上ると老欅荘が見えた。門前の桜は今が盛り。
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ここを建てた松永耳庵は父が勤めていた会社の開創の人であるから、所縁がない訳でもない。近代三茶人の一人ということでさぞ所蔵の逸品が展示されているのかと思ったが、展示室に茶道具や掛け軸は少なく、またこれというものも無くて少し肩透かしを喰らう。後で調べたら大半のものは東京国立博物館に寄贈してしまったらしい。

その裏手の小山に登っていくと、名前の由来となった大欅が出迎えてくれ、更に行くと住み暮らした庵が静かに建っていた。
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入って右奥の茶室の向こうには桜が咲いていて、風が強かったから吹雪となって広間前の庭に降り積もり、なかなかの風情があった。この茶室を次の間から端坐して眺めると、薄明が差し込む様子が殊に美しく、日本家屋の神髄にわずかに触れた思いがした。

各部屋にはきちんと野花が活けてあって感心したが、池の畔のもう一つの茶室で熱心に作業してる係の方が「私が活けているんです」という。随分熱心に再訪を勧誘されたし、月に一度土曜日には気軽な茶会が開かれるというから次は時間を取って訪問することに決めた。
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ここから東へ行くと、稀代の別荘偏執狂である山縣有朋の「古稀庵」があり、その裏手に腹心清浦圭吾の別荘があるというので、tweedeesマニアとしては足を運ばざるを得ない。(なお、大森山王にある「清浦坂」は訪問済み)
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↑途中竹林と竹垣が綺麗な細道を行く。

今は個人の御宅となっていて、公開日時は限定されているからそれに合わせて行ったつもりだったが、どうも庭仕事が入るようで公開されないようだったので、ここは次回にと踏ん切りをつけて駅に向かうことにする。
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↑古稀庵の門のみ写真に収める。

小田原駅まで戻ると想定よりも随分時間が余った。昼は守屋のパンと思っていたが、前から気になる「日栄楼」へ行って軽く餃子とビールで時間を潰すことにした。
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古びた扉を開けると店主らしき老爺がテーブルに陣取ってテレビを眺め、「どうぞ」と声をかけてきた。その卓には雑然と新聞や調味料が置かれ、うずたかく南瓜煮が積まれた鉢もあり、それを肴に飲み始めているように見える。
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やや荒れた雰囲気に大丈夫かなと恐れて待っていると、席の後ろからジュウジュウ焼ける音がする。なぜか餃子は厨房ではなく、入口横の狭いスペースで作られる仕様になっていた。待つことしばし、想定とはかけ離れた棒餃子が来た。
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こういう古くからの店が、流行りものに手を出して成功した験しはない。失意に暮れて一口食べると「シャクッ」と何とも軽い歯ざわりで餃子の皮が砕け散ると同時に香ばしさが鼻腔をくすぐる。そうして餡からはにんにくの風味が漂って、食い気を荒々しく刺激してくる。ハードルが下がっていたからか、これが抜群に旨い。こういう油で揚げる感じの餃子、例えば宇都宮餃子などは苦手な類のものなのだが、ここのものは別次元の軽やかさですいすいと胃の腑に消えていく。これは思わぬ出会いとなり、甚く満足して店を後にする。小田原市民におかれては、是非当店に足繁く通ってこの隠れた名物を墨守していただきたい。

気分も良くなって、二年前には蕾しか見られなかった城の堀端の桜を見に行くと、今日は通り抜けのようになっていて大変結構な景色になっていた。想定外の大収穫に満足して小田原を後にした。
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2018年7月15日 (日)

平塚で深堀隆介展と高校野球を見る

母校が高校野球で第1シードになっていることを知って調べてみると、近々平塚で試合が行われることが判った。確か平塚市美術館で金魚の人の展覧会もあったよな…と思ったらその通りで、しかも美術館と球場はかなり近いことも判明。そうとなれば行くしかないと平塚まで出張る。

連日の猛暑日だったが、駅に降りてみると平塚は海が近いので都内よりかなり涼しい。ほっと一安心してまずは美術館へ。
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↑かなり立派な建物の美術館

金魚の人こと深堀隆介は震災前後あたりからチラチラ目にするようになって気になってはいたが、網羅的な個展は初めてとのことで期待して見る。
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スタートは金魚に邂逅する前の作品が並び、彼は絵の人ではなくて造形の人であったことが判ったが、心を惹く作品はやはり金魚に開眼してからだった。(彼曰く「金魚救い」との由)

金魚が群雄するTシャツは涼し気で物欲を刺激され、真っ白で無機質なタイル張りの一角に金魚が住みなす作品はどこにでも命は萌え出ずることを示唆しているようで、気持ちも和む。

初期は酒枡に描きこんでいた金魚も徐々に良い食器に移行していって、井戸茶碗のものやペルシャで出土した器でのものには茶味とも俳味ともいえるニュアンスが漂っていていたく心を惹かれた。思うに金魚を描くことで命を点すことが出来るというのがこの表現の肝で、最後に展示されていた平成しんちう屋はその精華が燦燦と輝いていて心が湧きたった。
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一方、作品は手がかかり、しかもミニマルなものが多いから現金化には苦心されているように見受けられ、巨大な鱗の絵や金魚図などが展示されていたが、こちらはなかなか難しそうだった。近々出るINFOBARのプロモーションなどに採用されれば良いのになと個人的には思う。

また”平成”だとか屋号を名乗ったりだとか、花押を大きく書いて見せるなど山口晃に寄せていってる雰囲気もあり、ここからどう独自の雰囲気を醸し出すのかが正念場のように思う。同い年であるが故、今後の活躍を期待したい。
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涼しい美術館を後にしてバスで2駅の平塚球場に到着。
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↑バスを仕立てて応援に来ていて少しびっくり

暑さ対策を万全にしてきたが、そもそも気温が東京より涼しく、しかも屋根がある席を確保できた上、3塁側から浜風と思われる風がずっと吹いていたので快適な位の観戦環境で、じっくり勝負を楽しめた。
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試合は個人的には思い入れ深いスカガクとの一戦。序盤に母校が大量得点し、6回でコールド勝利を収める。右打者ばかりで三遊間方面の打球がかなり多く、相手の三塁手がそこまで守備がうまくなかったので難なく得点を重ねていったので安心して見ていられた。
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↑スタンドで校歌を初めて聞く

一方、驚かされたのは応援のレベルの高さで、授業がまだある期間だから吹奏楽部とバトン部、野球部の生徒だけだったが、一糸乱れぬ振り付けと迫力あるホーン、黄色い掛け声が相まって、地方の甲子園常連校並に感じられた。

ただ知らない曲があったので、帰ってからyoutubeで調べたら「モンキーターン」という曲らしく、どうもロッテの応援曲になっているらしい。動画タイトルに「ロッテ チャンテ」となっていたので、韓国人の助っ人の名前かと思ったら、チャンテとは「チャンステーマ」の略らしい。

さらに元ネタを辿るとパチスロのテーマ曲なのだとか。今年には高校の吹奏楽部で全国屈指の習志野高校がロッテの試合で演奏したようで、これは流石にレベルが違った。

さらに個人的に期待していたセンチメンタルバスの「サニーデイサンデイ」をスカガクが演奏してくれて痺れた。センチメンタルバスのメンバーの一人は平塚出身ということで所縁の地でもあったので一入だ。

↑この頃のポカリのCMは夏を感じさせてくれて楽しみだった。

↑綾瀬はるかくらいまでは良かったのに…

ポカリつながりで大天使宮沢りえを見てなんとも言えない懐かしい気持ちになる。ともあれ、涼んだり熱くなったりなかなか夏らしい一日を過ごせて楽しめた。

2018年4月25日 (水)

中目黒・恵比寿界隈で美術に触れる

この春は中目黒・恵比寿界隈で美術に触れることが多かったので記録しておく。

山口晃の「すゞしろ日記3」発売を記念して、NADiffギャラリーで原画展が催されていたので足を運んだ。
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山口さんが在廊している可能性もあるかと思って、過去にサインしていただいた画集持参ででかけたが、らせん階段を下った地下牢のようなところだったのでやはりご本人はおらず・・・それでも誰もいなかったので、じっくり原画とストーリーを追いかけることができた。

そこから映画によく出る「喫茶銀座」で一服し、
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てくてく歩いて郷さくら美術館へ。初めて行ったが、この時期は桜花賞展として新進の画家たちによる桜の画が会場中を埋め尽くしているのでなかなかの壮観。

なかでも田口由花「明の花」と當川伸一の「三春のさくら」の二作品は桜の清楚さと妖艶さの二相を感じさせるもので印象に残った。

白眉は藤井聡子の「桜図」(但しこちらは桜花賞への出品作ではなかった)ヤマザクラの繊細な描写と水辺を思わせる単純な背景の合間に桜を詠った和歌の短冊が織り込まれていて、その達筆なことにも驚いたけれども、ひとりで光琳と宗達を任じてしまうその発想が冴えていて、しかもそれを破綻させない画力もあって感嘆させられる。今様琳派と問われた際に第一に挙げたいような作品だった。
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(↑画像はネットから引用)


その後、偶々応募した観覧券プレゼントに当選したので、気になった田口由花が作品解説をする日に再訪。幸い間に合って席に滑り込む。
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(↑画像はネットから引用)

案外本格的な解説で、作品の制作過程をパワポを駆使して見せてくれて、出来上がるまでの試行錯誤がわかって理解が深まった。一方、完成手前の画を見たのだが、そこには桜の袂に申し訳程度に描かれたちょんちょん草がなく、その方が全体がすっきりしていてよく見えてしまった。あれは何で書き足してしまったのか聞けばよかったが、面前で聞くのも気が引けてそのままで帰ってきてしまった。惜しいことをした。

どうも彼女は風景画より花鳥画の方が得意なようだから、そういう画を展示する際には覗いてみたい。

桜つながりで山種美術館で数年ぶりとなる美術館でお花見!桜さくらSAKURA展にも足を運ぶ。
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大好きな橋本明治の「朝陽桜」は相変わらず眩い輝きを放っていたが、他には石田武の「月宵」「春宵」が良かった。前出の田口と同じ夜の大桜と月の景色なのだが、こちらは木の袂はスッキリとしているので月と桜の朧な風情に焦点が合い、飽きずに眺めていられた。
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↑画像はネットから引用

他には西郷孤月の枝垂桜が目に留まる。若くして失意のうちに亡くなったというドラマティックさも加味されているかもしれないが、枝振りに不自然さがなく朦朧ぶりも程よくて、抱一筆と言われても違和感を覚えない佳品。これは月と柳も揃っての連作のようなので、残りの二つも合わせ彼の作品はもう少し見てみたいと思う。

東急沿線に住みながらも行き慣れない場所だったが、郷さくら美術館と山種美術館は歩いて歩けない距離でもないので、今後は機会を見てはしごを楽しんでみたい。
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↑うまくタイミングが合って目黒川の夜桜も楽しめたのは思わぬ収穫。

2018年3月 3日 (土)

みうらじゅんフェス!を見に行く

川崎市民ミュージアムはシアターの企画がなかなかなのでチェックをしているが、この度みうらじゅんの膨大な収集物を展示する「みうらじゅんフェス!」を開催するとのことで、出かけてみることにした。

まずは腹ごしらえと新丸子で行きたかったタイ料理のプリックタイを調べたら、昼はやっていなかったので、次点のマドラスミールスへ行くと店前には行列が。なんでもインド人たちの帰省で1か月店を閉めていた直後だったから、こうなるのもやむなしと観念して、20分ほど待って入店。

家人はベジタリアンミールス、こちらはノンべジを注文。ミールススタイルは経験値が少ないが、汁物の味わいに変化が少なくやや拍子抜け。以前食べたケララの風Ⅱの方が一皿ごとの味の変化があって、それを混ぜ合わせた時の化学反応ぶりも楽しめたと思う。あちらはそのコントラストを、こちらはそのグラデーションを楽しむようになっているのかもしれない。
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(写真はネットから引用)

店を出て多摩川の堤防沿いを腹ごなしに散策する。空が開けているし、足元には春を感じて一斉に伸び始めた山野草があちこちで見られてほのぼのとした気持ちに。
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↑ゴジラに破壊された丸子橋
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しばらく行くとアスファルトに足跡があり
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よもやあの北京原人が「ウパー」と叫んでみうらじゅんフェスへ向かっているのかと思わされたが、道が整備された時の誰かのいたずらのようだった。
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さらに進むと目当ての河津桜が見えてきた。このところの春の陽気で一気に開花が進んだようで9分咲きになっていて行きかう誰もが足を止めていた。
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すっかり心も弾んでここからすぐの市民ミュージアムへ。入場券を買うのに並ぶくらいの人出でなかなかの人気。
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↑伝説の通信空手資料一式!
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↑アウトドア般若心経
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↑ゆるキャラの始祖、トリッピー
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↑最新マイブーム「冷マ」
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↑笑ってしまってピント合わず・・・

一人っ子気質の爆発力が世の中にピタリと嵌った稀有な存在であることを再確認させられる展示だった。一方、1998年のみうらじゅん大物産展に足を運んだ身としては、展示が通り一遍な感じで少し物足りず。というより、みうらじゅんの一番脂の乗った時期は20世紀末で、今世紀になってからはその余禄で食べているような感じなんだと思わされた。

ともあれ、これだけくだらないことを全力でやり続けるのはさぞ骨折りだろう。展示物全体にその辛苦が滲んでいるように感じたのは、こちらも20年歳をとったせいもある。還暦を迎えた今後は力を抜いて、転がる石であり続けてほしいところだ。

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↑「ん?」と思わされたところ・・・
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↑「穿かせたろう」か!と気づいたときにアハ体験

マドラスミールスインド料理 / 新丸子駅武蔵小杉駅沼部駅
昼総合点★★★☆☆ 3.2

2017年11月15日 (水)

「江戸の琳派」・桶谷曜変・「驚異の超絶技巧!」展をめぐる

京都で宗達の風神雷神図を見た余韻が残っているうちに、ある種”孫引き”とも言える抱一のそれを見ておきたいと思って出光美術館の「江戸の琳派展」へ出かけた。

お目当ては入って早々にあり、開館前に少し並んだお陰でかなり独占して見られた。
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近寄ってみているとよく言えば端正な、悪く言えばお行儀が良すぎる雰囲気なのだけれども、2-3M離れてみると両神が屏風から立ち昇ってくる感覚が味わえて俄然魅力を増す。屏風としての使用をよく考えた上での配置と構図なのだろう。

抱一は八つ橋図や紅白梅図など大作が揃っていて目移りしたが、一番心惹かれたのは青楓朱楓図。
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単純化され意匠にも見える山河や楓の葉が流麗に展開する屏風の片隅に、ごく小さく精密に描きこまれた菫など野の花が点在し、これによって不思議と画面全体に現実感が添えられるから、抽象と具体が入り混じる夢の中のような景色に没入することになる。いかにも見飽きず、終始うっとりした気持ちに揺蕩うことができた。 


次点は四季花鳥図に描かれた目白たち。かわいい・・・
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其一では扇面ほどの紙面に種々とりどりの秋草が描きこまれた小品が良く、どことなく京都のいいところの折詰弁当を見ているような気持にもなった。

満足してその足で今曜変が展示されるという銀座の黒田陶苑へ。開店早々にも関わらず、2Fの展示ギャラリーは人が一杯とのことで1Fに待ちの列が。

しばらく待っていると先に見た人々が降りてくる度に曜変酒杯を購入していく。しかもその配送先は北陸やら中京やら遠方のものが多く、とすればわざわざここまで現物を確認しにやってきたのだろう。世に好事家というものが確かにいるのだな・・・との思いを強くした。

順番が来て階段を上がると作者の桶谷氏とともに酒杯数点と曜変天目茶碗が鎮座していた。売り物だけに手に取ることができるという僥倖に恵まれ、恐る恐る手を添えて傾けてみたが、稲葉天目に相当する大宇宙が掌中に展開して陶然とした気持ちになる。
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これは最早曜変天目と言って過言ではないと個人的には感じた。その後終日軽く酔ったような心持が続き、曜変の魔力の一端を知った気になった。

他日。清水三年坂美術館の銘品が日本橋に来ているというので三井記念美術館へ行く。噂に聞いていた象牙の静物や菊花繚乱の香炉、茶碗
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もさることながら、現代の名工たちの超絶技巧に驚かされることが多かった。

金属でできた蒲公英の綿毛や
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蛇の骨格の自在置物
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にも嘆息しきりだったが、二頭が相乱れる巨大なオオサンショウウオの鉄の置物が、その質感といい精巧さといい抜群の存在感を放っていて思わず「ふへー」と唸ってしまった。
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国宝展も含め”芸術の秋”を地で行くこととなったが、濃密な時間を過ごせて甚く満足した。(写真はいずれもネットから引用)

2017年11月 1日 (水)

国宝観覧入洛記1:国宝展

毎年結婚記念日にはそれなりの所に食事に出かけているが、今年は京都で「国宝展」が開催され、しかも平日休みが取れる時に幻の名器である龍光院蔵の「曜変天目」が展示されることを知って、日帰りで入洛してそれに代替することと相成った。

朝早い新幹線で寝ぼけまなこだったが
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優麗たる富士の峰が目に入った時にはさすがに目が冴える。
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幸先よく今日一日の瑞兆が現れよい心持で京都到着。まずは八条口のコインロッカーに荷物を預け、9時前のバスにのり博物館には9時丁度着。事前情報ではかなりの行列と聞いていたが、この時点では建物内に入れるくらいで順番としては300番目位。

しかし10分もすると建物内の行列が外に延び、開館の9時半には長蛇の列が…もう1-2本遅い新幹線だったら危なかった。
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↑帰りに出来ていた行列。80分待ちになっていた。

観覧も十分作戦を練っていた。目当ての「曜変天目」は館内に入っても待ちの行列が出来るという。そこで入館したら展示の最後半にあるそこを真っ先に見物し、その後目当てのものを空いている内に順に拾っていくというもの。

好都合なことに本来の入口である3Fへのエレベーター前に1Fから入場する場合はこちらと案内が出ていたので一目散に曜変天目が展示されている部屋へ。するとまだここまで到達している見物客はほとんどおらず、4・5人が並んでいるのみだったので、ゆったりと鑑賞が出来た。

どちらかといえば藤田美所蔵の曜変に近く、輝紺の大宇宙に澄んだ光を放つ星たちが瞬く景色が広がり、見ていて吸い込まれそうになるし胸が高鳴るのを感じた。

その後、列に並ばずもう一段外から覗き込むようにしたが、今度は周りにあるすべてのものを飲み込むブラックホールのようにも見え、わずか数寸の椀ながらその存在の絶対感は流石だった。
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次点は雪舟の慧可断臂図。岩や慧可の表情の細密さと達磨禅師の後背の空白との描写の隔絶が、両者の関係を象徴しているようにも見えて色々想像が捗る。慧可の視点から画を見ると、達磨の背中が”無”そのものに見え、取りつく島の無い絶望がこちらに迫ってくる感もあった。
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その他では縄文土偶シリーズと火焔土器は原初の衝動が具現化されている凄味があったし、
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「風神雷神図」も初めて本家を目にしたし、
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予想に反して優美な姿形と繊細な口の造形に見蕩れた「飛青磁花瓶」は拾いものだったし、
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流石国宝だけの展示とあって枚挙にいとまがない。作戦成功も相まって満足いく見学が出来た。(作品写真はいずれもネットから引用)

2017年5月10日 (水)

東京から18きっぷで行く日帰り旅3:ホキ美術館と久留里

ほとんど寄り付いたことのない千葉には行きたい場所が二つあった。精密写実作品が集められているホキ美術館と、新子安の諸星酒場で飲んで美味しかった福祝が醸される名水の里久留里だ。やや離れた立地だけれど一日で回るには適度な距離だったので一気に行ってしまうことにした。

品川駅から横須賀線に乗ってしまえばホキ美術館のある土気には一本だったので移動は楽だった。途中車内をきょろきょろしていた白人の男性が居て、大きなスーツケースを抱えて成田に行くのかな…と思ったら、某新興宗教の合宿セミナーに行くようだった。極東の島国で自分探しの旅とは、どんな切迫した事情があるのやら・・・と思っていると土気駅に到着。

バスで5分ほどのところにあるホキ美術館は周りは普通の住宅地で、いきなり未来感あふれる建物が現れるからかなり目立つ。裏手には大きな公園があり、空にはひばりが飛び交うのどかな雰囲気とは一線を画している。
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展示は少したわんだカステラ状の回廊にびっしりと作品が並んでいて壮観だが、空間にゆとりがあるので心静かに作品と向き合えてとてもいい。ただ筒状になっている建物の構造上、遠くの人の声がかなり遠くまで反響して飛んでくるので、べらべらしゃべるおばさん連中と同じフロアにいた時は閉口した。

どれもこれも精密描写でリアルに肉薄する凄味を感じられたが、特別展のホキ大賞入選作では三重野慶が描いた特別賞の女性像に舌を巻いた。唇と髪の毛の質感がその他の入賞者より一歩秀でていたように思う。それから人物画も風景画もこなす森本草介が印象に残った。特に川沿いの集落の風景は見蕩れてしまい、ベンチに座ってずっと眺めていた。
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(写真はネットから引用)


想像していたより作品も多く、どれも迫真の描写で来た甲斐があった。「あすみが丘」という東急らしいふわっとした町名の地に別れを告げて、内房線に乗り継ぎ木更津まで行き、そこから久留里線に乗る。木更津はイメージよりも荒んでおらず、ヤンキー感は皆無で少しがっかり。

閑散とした祇園駅を越えると山間の田園風景が広がり、途中の駅のホームには菜の花が咲き誇っていた。
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菜の花はこの沿線のテーマカラーにも採用されており、列車のカラーリングはまさにそれで、なかなか好ましい。
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好ましいと言えば久留里駅の駅舎も昔ながらの風情があって良かった。
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久留里の街には昼晩くに到着。店が休憩に入ってしまう前に急いで目当ての蕎麦屋「藤美」に行く。久留里に来た目的には名水と酒に加えて、力を入れている「ホンモロコ」を食べるという点もあった。京都では冬に「寒もろこ」として珍重される魚で、炭火で焼いてふわりとした身とワタの淡い苦みを楽しむという。藤美ではほんもろこの天麩羅そばが味わえるというので早速それを頼む。

コップ酒はこれも久留里の酒蔵吉壽のもの。
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天麩羅は別皿に乗せてくれており、つまみながら呑む身にとっては出汁が染みすぎてしまう恐れもなく、誠に好都合だった。
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磯辺風味のそれは大変さっくりしていて、身はさらりととけていってしまう。骨はまったく感じず、ごく後になってワタの残り香が口中に漂って後口を引き締める。なるほど、これはいい。ふっと消えゆく儚さが後を引く一品で、めひかりの食感によく似ている。期待通りの味わいに満足して店を出て街を散策。

目当ての藤平酒造は大通りから一本入ったところにひっそりと。
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そこから程近くに店舗があって、流石にフルラインナップの品揃えで密かに感動。純米吟醸の生酒を買って帰ったが、ごく控えめな発泡に穏やかな甘みと酸味が相俟ってつるりと咽喉奥に滑り込んでいく佳酒だった。
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となりの魚屋にはホンモロコの活魚が売っていたが、帰宅まではかなり時間があったので購入は断念。今度はエアポンプ持参で来よう。

住宅街に入って行くと、湧水が引かれた水道塔があちこちにあって、蛇口をひねると清冽な水がひんやりと手を濡らす。
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あちこちの水飲み場で飲んだが、藤平さんの店舗前のものが実に丸くて流麗で美味しかった。

季節柄、道端には花があれこれ咲いていて心和む。
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居酒屋くるりは「家出娘」がしんねりと飲んでいそうな雰囲気。
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帰りの電車には時間があったので、駅前横丁にぽつりと残された中華の喜平に入ってラーメンをすする。都内の古い飲み屋街に慣れているので格別の風情は感じないが、車社会が当たり前のこのあたりでは物珍しい駅前横丁のノスタルジックな店だけに人気は高いようで、入口には順番待ちの名前を書き込むノートが備え付けられていた。
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ラーメンはごくごく普通のもので、ここは店の雰囲気を味わうタイプの店のようだった。
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帰りに土産でも・・・と足を運んだ駅前の和菓子屋広木堂では三万石最中を購入。4つしか買わなかったが、ロールケーキの切れ端をおまけで付けてくれてちょっと嬉しい。最中は基本に忠実な仕上がりで、ねっとりとした餡とほどよい余韻を楽しめる甘みがよく、あれよあれよと食べてしまった。
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千葉だって探せば良いところがあることを知った一日となった。

手打ちそば処 藤美そば(蕎麦) / 久留里駅)  
昼総合点★★★☆☆ 3.4

藤平酒造その他 / 久留里駅)  
昼総合点★★★★ 4.0

喜楽飯店中華料理 / 久留里駅)  
昼総合点★★★☆☆ 3.2

広木堂和菓子 / 久留里駅)  
昼総合点★★★☆☆ 3.5

2016年11月30日 (水)

「鈴木其一」展と「速水御舟の全貌」展

鈴木其一の「朝顔図屏風」はとても心を寄せている作品だ。2004年の琳派展で現物を見て驚き、そのすぐ後に出かけた彦根の城下町の一角で同じく濃紺の朝顔が一面に咲き乱れる姿を見て、さらに脳裏に深く刻み込まれることになった。

これだけの名品なのにメトロポリタン美術館の所蔵なので現物に会える機会は限られており、今回は前回見た2004年以来の里帰りだという。夏時分はPCのスクリーンにも使っている身としては行かずばなるまいと、普段は距離を置いている六本木界隈へ出かける。

サントリー美術館は初めての訪問となるが、ビルの中にあるのでこじんまりとした印象。2・3展示室を過ぎると、目当ての朝顔図屏風がどどどんと登場。さほど混んでおらず、右隻左隻各々の方向からじっくりと鑑賞。近寄れば単純化されて見える図案を多用しているのに、

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離れてみればダイナミック感とリアル感が打ち寄せてきて、
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この架空と現実の相混じりあう感じに心を惹かれていることが再確認できた。

他日。日曜美術館に刺激されて山種美術館に速水御舟を観に行く。お堀端にあったころには花見がてら寄り、贔屓の橋本明治「朝陽桜」をよく観ていたが、広尾に移ってからは初めてとなる。なかなかの威容にびっくりしたが、展示室自体は意外に小さい。

子供の頃切手蒐集をしていたので御舟の「炎舞」はなじみ深い。しかし、別室のひときわ照明を落とした展示室で対面したそれは神々しさが並大抵ではなく、心打たれる。
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炎舞に至る前段階の作品も展示されていて興味深い。
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会場に入っていきなり面喰らう細密描写の柘榴もいい。
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繊細さは蜘蛛の巣を描いた作品でも感じられた。
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少しウェットな雰囲気が持ち味の夜の梅や晩秋の気配を色濃く感じる鯊図もなにやら心に沁みてきていい。
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思った以上に収穫の多い展示会だった。(以上写真はいずれもネットから引用)

2015年12月12日 (土)

九品仏の紅葉と静嘉堂美術館

年末になって大井町線沿線に出かける機会が多かった。梅雨時にふらっと立ち寄った九品仏の境内は青もみじが綺麗で「これは秋に来たらさぞ・・・」と思っていたが、今年は紅葉が遅れて師走になりようやく色づいたようだったので足を運んだ。

参道を行くと門が現れて、その向こうには赫々たる紅葉が覗いていた。思っていたよりもずっと見事な景色で思わず嘆息が洩れる。
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山門の先には銀杏もあって、更に彩りを増す。
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あまり人に知られていないようで、しっとりとした空気の中、飽くまでその美を堪能できて心が和んだ。

他日、静嘉堂文庫が改修を記念した展示をしているとのことで初めて訪問。建物は広大な雑木林の中にあって、その道すがらは武蔵野の風情が感じられて清々しい気持ちになる。ここに来るまでのバスがひどい混雑で辟易したから、尚の事だったかもしれない。

展示の中で印象に残ったのは酒井抱一の「絵手鑑」で、描写の細密さと色彩の単純化の頃合の良さが強く印象に残り、手ごろな大きさでもあったから思わず「これ、欲しいナ・・・」と呟いてしまった。
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これとは対照的な「波図屏風」の荒々しい筆使いと寒々とした銀地には身が引き締まる思いがした。
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一方、この美術館の白眉である「曜変天目茶碗」は天然光の下で鑑賞してほしいとのことで窓際に展示されていたが、西日が差し込んでしまって漆黒から浮かんでくる群青の星々が白けてしまい、掌の中の小宇宙の凄味が消えてしまっていた。

茶碗は日本家屋の中、日差しを障子で和らげた仄暗い空間でその美を存分に発揮するものだという基本を忘れて奇を衒う展示になったことは残念でならない。谷崎の「陰翳礼賛」あたりを再読していただき、次回以降の展示は再考してほしいと感じた。
↓これが
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↓こんな感じに・・・
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帰りがけ、老齢のKOボーイが眩暈を起こした友人を救急車で世田谷の美術館から信濃町のKO病院まで搬送させたと電話で話しているのを聞いて、その幼児性にこちらが眩暈を起こしそうになったことも書き留めておく。

2015年5月14日 (木)

蒼翠東下旅5:桂離宮・永観堂・松尾大社

【桂離宮】
今回の旅の大きな目的の一つは桂離宮の見学だった。ネット申込はほぼ秒殺で予約が埋まる一方、葉書なら枠も多いし取り易いとの情報を踏まえて葉書で申し込みをしたところ、第1希望の日付で拝観許可通知が来たのでほっとした。ひとによっては何度も応募しているのに通らないということもあるようで、5月下旬という日程がうまくはまったのかもしれない。

予習として「つくられた桂離宮神話」を読んでみたが、要するに「桂離宮こそ日本の建築美の粋」という考えは昭和初期に一旗揚げたかった建築家集団による喧伝の賜物という内容で、そのことが実物へのハードルを下げてくれることになった。

回遊式の庭園を巡りながら様々な建物を鑑賞していくのだが、名高い市松模様やモダニズムの萌芽と評される書院などは目の当たりにすると、やはりときめくものがあった。特に書院はぴしりと決まった水平方向の直線の安定感と華奢な垂直方向の直線の均衡が見事で、モダニズム建築を志向していた人々が心を奪われるのも道理だと素直に首肯できた。
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おおよそ1時間で終了したが、何度も東屋で休憩を入れるのでさほど疲れずに済んだし、30度近い気温だったが湿気が少なくなんとかやり過ごすことが出来た。ただ帰り口で見かけた朽ち果て気味の茅葺の苔むした様子が涼やかに映ったことが記憶に残っているので、これ以上暑いとしんどいだろうと思う。幸い客待ちしていたタクシーをつかまえて桂駅まで楽が出来たのも良かった。
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【永観堂】
紅葉が美しいのなら青もみじもきっと美しいだろうと思って訪問。そう考えて旅の計画を立てた直後にJR東海のCMで同様の趣旨の内容が放映されて「混み合うかな・・・」と危惧したが、人もまばらで存分に蒼翠を堪能できた。
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みなぎる精気を一斉に放つもみじの葉を吹き抜ける風は殊の外爽快で、みるみる身体が浄化される思いだった。

【松尾大社】
桂離宮の前に立ち寄る。酒造の神を祀るとのことで、酒蔵から奉納された菰樽が高く積み上げられた様は壮観だった。
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霊泉亀の井の水は冷たく喉を潤してくれたし、木漏れ日きらめく林間の滝のしぶきも肌に心地よく、短い滞在だったが気持ちが涼やかになれた。今度は名高い山吹の季節に訪れて、重森三玲作の庭とともに楽しみたい。
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久々に京都の古い寺社や建築を巡ったが、いずれも心地よく過ごせた。人の少ない時期ならば、心を静謐にしてくれるので良いものだなと改めて感じた。