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2019年8月20日 (火)

東京都心の和菓子屋巡り

東京の都心三区で小商いの筆頭ともいえる和菓子屋を営むのは到底困難な時世となっているから、たまに見かけると応援方々買って帰ることになる。

赤坂見附など用事があって降りた例はないが、幸い東急メトロパスは地下鉄線内乗り降り自由なので、小山台高校の応援に神宮に行った時に地上へ上がってすぐの青野に行ってみる。駅出口すぐ横という申し分ない立地で盛業していて頼もしいかぎり。中に入ると朝生菓子から上生菓子、季節柄涼し気な水羊羹や水まんじゅうと豊富な品ぞろえで目移りするが、お手並み拝見と思って「ほおずき」と「ほたる」との銘の上生菓子を購入。
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裏に戻って商品を持ってきたから、この季節の事、冷蔵していたようで餡がやや硬く感じられ重い雰囲気だったのは少し残念だったが、その造形の美しさはなかなかのものだった。若主人とお見受けした方の練れた接客は流石のもので、この立地ならではのお使い物需要を手堅く満たしているようだった。

銀座に出た時にはイトシアの裏に回って大角玉屋の出店を覗くようにしている。家人がよく土産に買ってきてくれて馴染みになったが、高速道路の下のこじんまりとした店がいかにも和菓子屋らしくて好もしい。いちご大福の元祖として名が知れているが、ここも上生菓子を何種かは置いているのでそれを目当てに足を運んでいる。

夏のある日、水の流れを模したものと「水遊び」との銘のものを買って帰る。古典的な型のものも、現代風にポップな色調に仕上げたものも仕上がりは美しく、一服の清涼剤になる。
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しかして餡は個人的には得意ではないねっとりとした系統のもので、夏だけに舌に甘みが残るのは爽快さという点では残念だが、逆に秋冬にはこの甘さの余韻が心に響いてくるだろう。

三田の慶應の前の大坂家は山口瞳の実家がが麻布に家を構えていた時の贔屓で、御母堂の依頼で「織部饅頭」を作ったという逸話を聞いて10年以上前に出かけて行ったことがある。過日界隈に用事があったので立ち寄ってみると、変わらず盛業中のようで安心する。

萌え出づる芽吹きを模った「若草」と君時雨を買って帰ったが、まず色調の具合がいい。そうして「若草」は細かな細工が施されていて、それが春の野のわき立つ精気を感じさせて見事な造り。
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甘みも餡のほどけ具合もごく品が良くて、この辺りの旧家にお邪魔した際に美味しい緑茶と共に出されたらさぞ良いだろうなと夢想してしまった。

そういえば・・・と大坂屋の店先で思い出して、歩いて10分ほどの松島屋へ行ったらまだ豆大福があったので買って帰る。東京三大大福の一角を担う店だが相変わらずざっかけない店構えで、まだ港区にも庶民の生活が残っていた頃の風情が色濃く残っていて好ましい。そうして豆大福は相変わらずたっぷりのえんどう豆とさっくりと切れの良い餡、ふるふるした食触が身上の餅が三位一体となって卓越した味に昇華しており、しみじみ美味しい。
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最近こちらの近所に越してきた上皇夫妻にも、遠い昭和を懐かしむひと時に食べていただきたい逸品だと思う

2019年6月30日 (日)

津軽海峡北南20:ル・ブルジョン・開雲堂・大阪屋

特に感銘を受けた個人的弘前スイーツ御三家を別に記すことにする。

【ル・ブルジョン】
オー・ボン・ビュータンで修業された方がやっているというのでアップルパイを買ってみる。開店早々に行ったのでパイはまだじんわり温かく、ほんのりバターが香って食欲をそそる。薄玻璃のようにシャクっと砕けるパイ生地は実に繊細な仕上がりで、中のリンゴのコンフィチュールとの相性もいい。後口さっぱりで口に油っこさが残ることもなくごく軽快な仕上がりで、これなら他の品も間違いないだろうから、あれこれ買えばよかったと後悔した。
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【開雲堂】
土手町の商店街に重厚な店舗を構えていて、一種のランドマークのようになっている。中はほの暗い明かさに保たれていて、日本文化の隠れた功労者である陰翳を大事にしている姿勢が好ましく感じられた。和洋いずれの菓子も手掛けていて目移りしたが、ここは初心貫徹、七夕を題材とした「織姫」と願い笹を模った上生菓子を買って帰る。
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織姫は橙色と桃色を隔てる乳白色の嶺が天の川のように見え、そこにまぶされた砂糖の粒子が無数の星々を、そして金粉がひときわ輝く織姫星ベガを表現していて、二寸たらずの練切に小宇宙が見事に抽象化されているのに驚かされる。そして朝出来の新鮮なものだったようでふっくらとした餡は甘さの調子の品が良く、その口溶けの良さは出色だった。流石はそれと知られた名店の味わいで甚く満足した。

【大阪屋】
和菓子の老舗としては開雲堂と並び称される店だったので、弘前を発つ日に寄ることにした。創業から凡そ400年、京都でもこれに太刀打ちできる店はほぼ無いほどの伝統を重ねてきた店はやはり威容を誇る店構えで、金看板に店の矜持が伺えた。
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中に入ると名高い螺鈿細工の棚が見えて、鈍く放つ光の屈折に目も眩みそうになる。
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↑写真はネットから引用

上生菓子を二つ、それにここでしか買えない銘菓「竹流し」を購入。上生菓子はなんと190円と破格の御値段。雨露に濡れる紫陽花二題は、型取りしたものはしっくりと、きんとんのものはふかふかとした餡の具合でその違いが楽しめるのが嬉しい。
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濃いめに抽出した麦茶と一緒に頂いたら「梅雨空続きも悪くはないな・・・」と思わされたから、流石の仕上がりである。

大名物「竹流し」は、まあ江戸の昔はそうないもので驚かされたかもしれないけれども、蕎麦ぼうろが遍く流通している現代にあってはそうでもないだろう・・・と思ってひとかけ食べてみたら、絶妙の脆さといい、微かに立ち昇る蕎麦の香ばしさといい、ごく穏やかな甘さ加減といい、実に質朴な風味なのだが切ない気持ちにすらなる逸品だった。
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↑純白無垢の缶が高貴さを演出
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北の地の厳しい環境にあっても甘やかなひとときを楽しみたいという切実な思いがこの一菓に結晶したようにも思え、それを数百年と途絶えずに作り続けてきた店の凄味を知ることになった。もう一つの銘菓「冬夏」も素晴らしいということなので、必ず再訪して四百年の星霜を余すところなくこの身に併呑したいと思う。

2019年6月27日 (木)

津軽海峡北南17:高砂・仁平寿司

弘前での昼食は二日とも立派な普請の店でとった。

【高砂】
門を構える「高砂」は敷地に蔵もある豪壮な屋敷で、奥の座敷では精進落としが開かれるなど土地の人の節目節目にも対応する大店だったが、店の人たちは大らかで特段緊張を強いられることもなかった。
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暑かったのでもりそばを食べようとしたところ、こちらではざるが大盛であると書かれていたので、そちらにする。
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待つこと数分、供された蕎麦はほっそりと白い更科蕎麦で、店の雰囲気によく合っていた。
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汁は甘からず塩辛ずの程よいもので、するりするりと胃の腑に滑り込む。弘前はアップルパイや和菓子など甘いものの宝庫なので、昼を抑えめにしたいという向きも多いと思うが、ここなどその要望にピタリと応えてくれると思う。

【仁平寿司】
九年前に弘前に来たときには情報が少なすぎて躊躇してしまったが、今回は様子が判ったので予約を入れて伺うことにする。弘高下駅からすぐの店は高砂よりもさらに豪奢な造りで、一見では寿司屋であることが判らないかもしれない。
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中に入っても銘材をふんだんに使った見事な柱や梁が壮観で店に品格を与えていたが、不思議と威圧感は感じずに唯々その直線の決まった美しい空間を堪能することが出来た。電話した時にお決まりの3,000円があるとのことだったのでそれを二人前頼んで、座敷から望む窓外の青紅葉を肴に盃を傾ける。
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直に華麗な色絵が施された大皿に盛られて端正な寿司が登場。一瞥しただけで「これは間違いないだろう」と思ったが、果たしてどのネタも申し分なく美味しくて相好が崩れるのを禁じ得ない。
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どのネタも口に入れると、その真味が真っ直ぐに舌に伝わってくるのだがその加減はあくまで優美で厭らしさがまるでない。そうして「ほう、これは・・・」と堪能していると、蜃気楼のように跡形もなく風味が消えていく。だから、続けて食べても前の魚の余韻が混入することなく、毎度毎度きちっとその魚の真味のみが舌にたち昇る。練達の仕込みがなされていることがありありと感じられて、いや実に驚かされた。

まだいけそうな腹具合だったので、追加に鉄火巻をお願いすると「巻物でしたらうちの梅巻は他所にないものだから是非食べて行ってください」とご主人からのお誘いが。もちろんそれも頼んで、これもお勧めという穴子と美味しかった北寄貝を追加で握ってもらう。
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鉄火は勿論美味しいものだったが、お勧めのカリカリ梅を巻いた梅巻はなるほど他にはそうないかもしれない。梅雨前の少し蒸し暑い時だったから、一緒に巻かれた紫蘇の香りとシャキシャキとした梅の歯応えが心地よく感じられて、印象深い一品になった。

女将さんの細やかで心安い接客は気持ちの良いものだったし、大女将もネタの下拵えを手伝ってきっちりその任を果たされているなど家族皆で客をもてなそうという真摯な気持ちが満ちていて、とてもよい時間を過ごすことが出来た。ここは季節を替えて必ず再訪したいと思う。御馳走様でした。
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2019年6月26日 (水)

津軽海峡北南16:ピッツェリア・ダ・サスィーノ、ふじや

弘前最初の夜は自家製のモッツァレラチーズを使ったピッツァが楽しめるというピッツェリア・ダ・サスィーノへ行った。昼は大盛況の店と聞くが夜の早い時間はまだ空いていて、ゆったりと生ビールを呑み自家栽培の野菜を使ったサラダや生ハム・モッツァレラを食べながらピッツァの焼き上がりを待つ。
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すると焼き手の方が「二枚ともマルゲリータのご注文ですが、一枚は何か別のものに致しましょうか?」とテーブルまでやってきたので「マルゲリータが大好物なんです。それでナポリにも行ったぐらいで」と伝えると、勇躍窯の前に戻って焼き始めてくれた。やってきたピッツァは焼けて尚トマトソースに潤いがあって瑞々しく、自家製モッツァレラも気持ちよいぐらいに伸び、その上旨味も充分あって期待通りの美味しさ。
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久々に上出来のマルゲリータにありつけた悦びに浸っていると「もう一枚は今のとは少し違った味わいにしてみますね」と再び焼き手の方が登場。その二枚目、確かにチーズのコクが増して最初のよりもパンチがある感じ。「そうなんです。丁度よく熟成が進んだモッツァレラを使ってみました。」と嬉しそうに仰る。そこからナポリに修業に行ったことや、我々が訪れたことのある店の話でも盛り上がる。

まさか弘前でナポリ仕込みのピッツァに出会えるとは思わなかったので嬉しい驚き。それにしても自家製のモッツァレラでピッツァを焼いているなんて日本ではここぐらいだろうから、弘前に来たなら是非食べに行くべき店だと思う。

【ふじや】
旅行最終日の夜は気の利いた店で旨い酒と魚をやりたいと思い、評判の良いきくやに5日前から予約を入れて行く。店は満席で入口にはその旨の張り紙がしてあって、否が応でも期待が高まる。
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魚をたっぷり食べたかったので刺身の盛り合わせに銀鱈西京焼き、穴子白焼き、とうもろこしの天婦羅などを豊盃で頂く。

刺身の盛り合わせはたっぷりやって来てどれも大ぶりな切り身だったが、如何せん味わいの輪郭が少しぼやけて感じられ、ちょっと残念。それでも鮃と帆立は雲丹と一緒に食べてコクを足してやったら美味しかった。これは昼に仁平寿司でいい魚を随分食べてしまったことによるマイナス補正が働いてしまったのかもしれない。
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一方、銀鱈は味噌の漬かり具合が絶妙で、その風味と脂の乗った身の協奏は得も言われぬものだった。
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穴子白焼きとトウモロコシの天婦羅はまずまずといったところ。期待していた分ハードルを上げ過ぎた感があるが、どうもここはコースでお願いすると満足度が上がるようになっているらしい。次回訪問時はそうしよう・・・と階段を下りながら思った。

2019年6月22日 (土)

津軽海峡北南12:シュトラウス・甘精堂・クレオパトラ

【シュトラウス・甘精堂】
青森に行く楽しみの一つは「シュトラウス」に再訪することだった。相変わらず豪奢な雰囲気を保っていて、判っていてもここが青森であることを忘れさせる位のものだから矢張感服する。
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前回の訪問時には品切れだった「アプフェルシュトゥルーデル」があったので迷わずそれを注文する。
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薄手の生地の中には林檎・干し葡萄・ナッツ類のフィリングがぎっちり入っていて、ゲルマン系の律義さを体現しているかのようだった。酸味と甘みと香ばしさ、それにシナモンの香り付けも程よくて絶妙の均衡を保っている。これには生クリームの利いたウィンナーコーヒーの円やかな苦みが丁度よく、ウィーンでの午後のひと時もかくあらんという完成度に甚く満足した。

階下に降りるとお土産用の廉価版シュトゥルーデルがあったので買ってみたが、こちらはアップルパイのスティック版という仕上がりで、青森土産として喜ばれそうな一品だった。
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ここに来て忘れてならないのはそもそもの経営母体である和菓子の甘精堂で、昆布羊羹で名を馳せているが店の片隅に美麗な仕上がりの上生菓子が置いてあったので買って帰った。「清流」は見事な透明感に加え、苔の表現と共に川の匂いを運ぶ青海苔が微かに忍ばせてあって、その心配りにも瞠目させられた。
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「涼風」の淡い色彩と情緒深いグラデーションも美しい。
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いずれも申し分ない出来で揺るぎない老舗の底力を見た思いがした。ここの上生菓子はもっと評判をとってもいいと思う。

【クレオパトラ】
今夜の宿であるアートホテル青森に向かって新町通りを行くと、終点近くにただならぬ雰囲気を放つ喫茶店があったので、当初予定した「マロン」をやめて翌朝その「クレオパトラ」へ行くことにした。

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重厚で装飾的な調度品は純喫茶らしさを感じさせるが、店名からエジプトやアフリカを想起させるオブジェも多数飾ってあって、兼高かおるの家にでも招かれたかのような気持ちになった。
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また京都のイノダ本店のように店内に坪庭があって、そこから採光されているから店構えの印象より随分明るく、朝露に濡れ青々とした草木を眺めて飲む珈琲には清々しさすら漂っていた。

朝食に頼んだミックスサンドは鮮やかな色合いで食欲をそそり、オムレツも固からず柔らかすぎず玄妙な仕上がりで朝から幸福な気持ちになる。
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トイレの装飾も特徴的で印象に残るものだし、そこここに念の入った見事な店だった。余談だがインスタグラムに随分当店の写真が載っていて、ここを放ってはおかない青森女子の成熟ぶりにも感じ入った次第。

2019年6月18日 (火)

津軽海峡北南8:ティーショップ夕日

函館に来たかったのには三つ理由があった。その内の競馬場に足を運ぶことと大沼へ行くことは果たして、最後の宿願である「ティーショップ夕日」に向かったのは夕方17時前。元町のバス停から船見町行のバスに乗って終点までいくと坂道で苦労することもなく店の至近まで辿り着くことが出来た。少し歩くと薄桃色の平屋が見えてきて、そこが「夕日」だった。
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眼前に函館湾が広がり、夕日を浴びながら水道を行きかう船の様子が眺められる。店内はごく静かで、ゆったりとこの黄金の刻を楽しもうという客が思い思いに窓外を眺めていた。
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家人は嬉野の煎茶、こちらはほうじ茶を頼んだが、家人の緑茶が完璧な抽出によってとてもコク深く、昆布のような旨味が感じられるのには驚かされた。いかに普段雑にお茶を入れているか、自然と反省する気持ちになる。
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それにしても深い味わいの茶を喫しながら飽くまで輝く海を眺めることが、ここまで心に安らぎをもたらすとは思わなかった。どういう状態になるのかといえば、心地よい春風と陽を受けながら、いつまでもいつまでもウトウトと微睡み続ける感じに近い。ひと時地上の極楽に揺蕩うことが出来た悦びは、なかなか得難いものがあった。僅か40分ほどの滞在だったが、私にとっての函館の風景といえばここで見た野の花やきらめく漣や風雪を耐えた建物の風合いということになると思う。幾久しく続いてほしい店だ。
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2019年6月16日 (日)

津軽海峡北南6:阿さ利・いちりき

【阿さ利】
函館での夕食は二晩とも肉にした。第一夜はすき焼きの老舗「阿さ利」。予約の電話を入れたら平日にもかかわらず「17時からでしたらなんとか席を用意できます」と言われたから、大変な人気店のようだ。

西日に輝く入口をくぐると下足番がいたであろう玄関があり、靴を脱いで座敷に通される。古い日本家屋を丁寧に使い込んでいて、陽が沈みかけて部屋に陰翳が忍び込んでくると、使い込まれた木の風合いが次第に闇に馴染んでいって、独特の安らぎを与えてくれる。
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そこに鎮座する黒光りする鍋に仲居さんが野菜と肉を投入して火にかけると、じきにぐらぐらと割り下が煮えて堪らぬ匂いが鼻腔をくすぐる。
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頃合いを見て肉を引き上げると僅かに残る薄桃色がほの暗い夕闇にぽうっと浮かんで、座敷はいつの間にやら心躍る舞台装置に変じていた。さしがかなり入っている肉だったが、口がだれず胃ももたれずに済んだのは、清澄な鶏出汁をふんだんに使うところにあるのかもしれない。また、〆の柚子シャーベットの柚子感が強く、これが口と胃をさっぱりと洗ってくれているのも大きい。
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これだけの雰囲気とこれだけの味わいで二人で8,000円少しというのは随分値頃に感じられ、この辺が人気のゆえんだと感じ入った。
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【いちりき】
二日目は「北海道に来たからには塩ホルモンとジンギスカンは外せない」というこちらの希望に真っすぐに応えてくれる「いちりき」さんに行った。
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塩ホルモンメインの店だが、生ラム肉も置いてあるから一軒でどちらも楽しめるという旅のものには有難いお店だ。
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こちらも平日というのに入店時には満員御礼。肉をもりもり食べてる女子会など、どの席も盛り上がっていて見ていて壮観だった。こちらも負けじと塩ホルモンにジンギスカン、ハツ、ガツを頼んで早速焼き始める。
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↑ビールはやっぱり赤星!

塩ホルモンは実に丁寧に掃除されていて、雑味が全くなくクニクニした食感をいつまでも楽しむことが出来る。ジンギスカンもさっと炙れば十分な身質で、噛めば肉汁がほとばしってこれは旨い。
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旭川の「馬場ホルモン」で塩ホルモンを知った身としては、やっぱりガツを食べないとと思って頼んだのだがこれが白眉で、サクッという信じがたい歯応えと旨味をたたえた肉汁が口いっぱいに広がって、興奮状態に陥る。
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そこにご主人からサービスでフランスパンと溶かしバターが供され、これを炙ってバターを垂らしこんでやると食欲中枢が震えて制御が利かなくなり、あっという間に消え失せてしまった。特に溶かしバターは「魔液」とでも名付けたくなるほどの威力を発揮して、空恐ろしさすら感じた。
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これらに野菜スティック、ビール二本にレモンサワーで5,200円ほどと格安だったが「200円はおまけで5,000円!」と来たものだから、完全に脱帽するよりほかなかった。函館に来て海鮮など食べている場合ではない。そうして函館の塩といったらラーメンではなく「いちりき」のことだと記憶に刻んで店を後にした。本当にご馳走さまでした。

2019年1月12日 (土)

2018年に閉店した店を悼む(東京以外編)

地方に眼を転ずると、胸の痛むような別れが多い。

20年ほど前から何度も通ってうどん遍路を続けてきたが、その中で不動のNo1を誇っていたのが「讃岐の里」だった。うどん巡礼をする際、東西南北のジャンクションとなる坂出インター近くに店を構えて便が良く、日曜も営業していたから県外から訪れる身としては大変ありがたかった。

もちろん、なんといっても麺の出来が素晴らしく、活きを保つためにゆで上げたうどんを氷のコンテナで挟み込む工夫をされていて、そのお陰でいつ行ってもぴちぴちの麺が頂けた。また観光化されていない店だったから、讃岐の生活や原風景を垣間見ることも出来てそれも楽しみだった。残念ながらご主人がご病気で亡くなられたとのこと。謹んでご冥福をお祈りする次第。
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それにしても彦江・兵郷・宮武・松家・讃岐の里と第1次ブームをけん引した地元密着の店がほとんど無くなってしまい本当に寂しい。しばらくはうどん巡礼は取り止める方針でいる。

京都では祇園の「山ふく」、先斗町の「あと村」の閉店が辛い。山ふくは山口瞳の「行きつけの店」を見て暖簾をくぐった。なんてことのない温泉玉子や菜っ葉煮、子芋煮が出汁のバリエーションによって様々な味わいに仕立てられ、そのどれもこれも美味しくて「へーっ」と驚いてばかりだったことを思い出す。

今に至る自分のおばんざい好みはこの店から始まったと言っても過言ではない。最後に足を運んだ際、蛸長でも飲もうと決めていたので〆の炊き込みご飯を遠慮したら、「ご飯はええの?」と優しく声をかけてきた女将さんの温顔が忘れられない。
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あと村は最初に食べた折詰弁当が衝撃的な美しさと美味しさで、東京の内幸町に出していたお店でも頼んで、東京で京の味が恋しい際に大いに助かっていた。大将がご病気で店を閉める決断をしたと言う。無事の平癒を願うばかりだ。
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京都では八条口近くの「喫茶わたなべ」も閉店とのこと。レンガ造りの落ち着いた店でまたミックスジュースを飲みたいと願っていただけに残念。

盛岡に行こうと思わせたきっかけの店である「六分儀」も店を閉じてしまったそうだ。あの船のハッチのような重い扉を開いて、振り子時計の音を聞きながら馨しき珈琲を啜る贅はもう味わえないと思うと、心底寂しい思いがする。

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・・・と書いていたが先日、立ち読みしていて「良さそうだな・・・」と思い調べてみた「蕪木」という喫茶店のHPを見ていたところ、なんとこちらのご主人が閉店後の店をそのままに新たに「羅針盤」という店として再開させたという。偶然に手繰り寄せられてこの報に接し、世の中捨てたものじゃないとの思いを新たにした次第。

2019年1月11日 (金)

2018年に閉店した店を悼む(東京編)

2018年は実に14もの馴染みの店が閉店した。好みが保守的なので長く続いている店に通うことが多いから、こんな経験をしたのは初めてだ。もしかしたら時代の転換点に差し掛かった証なのかもしれず、その意味も含めて墓銘碑的に思い出を書き綴っておく。

住んでいる品川では既に記事にしたコルディアル、そして井門に加えて、西大井の「かね吉」に大井町の「丸八そば店」、飲食ではないが中延の「かぶらぎクリーニング」が店を閉じた。

かね吉は独身寮時代から足を運び、所帯を持ってからもちょくちょく通っていた。鮪のづけには油を少し垂らしてやるとコクが増して美味しいことを知ったのもココだし、鱈の肝煮が出てくる初冬は楽しみだったし、魚屋らしい美しい肌を持った痩身の大旦那さんの姿も忘れ難い。


丸八そば店は永楽分派だったが、本家より清潔で麺が伸びている確率も低く、総合力では勝っていたように思う。早々の閉店が悔やまれる。

かぶらぎさんは所帯を持って以来の付き合いだったから20年近くお世話になった。転居してからも納得のクリーニング店が無くて電車に乗って季節のものを出しに行っていたことが思い起こされる。ご夫婦で切り盛りされている姿が好ましく、忙しい時期は出前で夕食を済ませて仕事に没頭されていたことが印象的だった。

都心に眼を転ずると、銀座の「菊川」に有楽町の「慶楽」、田町の「うとら」、少し離れて阿佐ヶ谷の「対山館」と続く。

菊川は川島雄三の伝記を読んだ際に、内縁の八重司さんを見初めた店として記載されていて、調べたら営業を続けているので伺ったのが縁。ランチのお好み御膳は手の込んだ正統派日本料理の品々を味わえて、千円台というお値打ちだったから行列が出来ていることすらあったのに・・・。せめてもの救いは店の方に川島との縁のあった店かと確認したら「そうです」と確認できたこと。
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慶楽は大学時代のバイブル、池波正太郎の食遍歴のエッセイに載っていて足を運んだ。重たいメニューをめくって選んだビーフンの香ばしさが思い出される。

うとらは偶々飲んだ時に免許証を落としてしまって、滞在していたホテルに連絡してくれたことからしばらく通った。仕事に行き詰まっていた頃、閉店まで残っておでんの鍋から具材を仕舞うところまで見せてくれて「店やってみたら?」と誘ってくれたご主人の気取らない優しさが胸に沁みたことをよく覚えている。今度追善がてら鶏ささみのパクチーサラダを作ってみよう。
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散歩をしていてちとドキッとする笑

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2016年 1月月26日午前2時29分PST


対山館は阿佐ヶ谷のラピュタで映画を観るようになって知った店。カレーと珈琲、そして山小屋の雰囲気・・・往年の喫茶店によく見られる風情がまだ横溢していて、居心地がよくこれから足繁く通おうとしていた矢先だっただけに残念だ。
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どの店も経営された方々が団塊世代で引退というケースか、地代が高くなって店賃との兼ね合いで営業を継続するのが困難となったケースのいずれかということが多いようだ。寂しい限りである。



2019年1月 1日 (火)

2019年のおせち料理

大人になったら行きつけの店でおせちを誂えてもらって楽しみたいという宿願が、学生の頃からあった。今年は平成最後の正月、三十年色々あったが自分たちなりに刻苦精励したとの思いがあり、その労りに宿願を叶えようと足繁く通っている「きよ友」さんで受け付けていたおせちを頼んでみることにした。

大晦日、前日から徹夜で仕込んでいたという重箱を持ち帰り、明けて元旦、期待に胸膨らませて包みをほどく。
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実りの象徴、稲穂が添えられた重箱を開けると、端正に調製された祝肴の数々が並んでまさに壮観。
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一の重は錦玉子・伊達巻・紅白蒲鉾・数の子・帆立旨煮・栗渋皮煮・鴨ロース・栗金団・田作・車海老旨煮・黒豆、二の重には鰆西京焼・鰊昆布巻・子持鮎甘露煮・酢蛸・菊花蕪・煮締(梅花人参・蓮根・八つ頭・牛蒡・椎茸・筍)。

いずれも初日の出の光で照り映えて実に旨そう。
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そして見栄えどおりにいずれも旨くて酒は進むし、思わず笑みはこぼれるしで素晴らしい新年の口開けとなった。特に子持鮎甘露煮、鴨ロースが酒に合い、煮締も筍のみずみずしさや八つ頭の滑らかな舌触りとこっくりとした味わいが格別で、用意していた澤屋まつもと守破離は夜には空いて、早々に剣菱の応援を得る始末。
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御値段二万円也と値は張るように思うが、素材と調理の確かさを考えれば十分に値打ちのあるもので、ワインの小瓶も箸も敷紙もついて至れり尽くせり。来年もなんらかの理由を作って頼むようにしたい。

自分では雑煮とかぶら寿司を作った。今年の雑煮は鶏ハムを自作して餅に載せるようにしてみたが、その方がおさまりが良くて見栄えがいい。
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かぶら寿司は初めて作ってみたが、皮をむいて漬け込んだことから乳酸菌が少なかったようでべったらっぽい出来に。塩鰤の代用で生ハムを挟んで食べたがこれは申し分なく代役を相勤めてくれた。取り合わせを考え付いた自分を褒めたいところ。
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菓子は花びら餅を初めて楽しんでみようと思い、御嶽山の「呂万寿」へ出かけて購入。求肥の出来が素晴らしく、ふわふわ具合が赤ん坊の肌を思わせて、なるほど常若を願う新年の菓子に相応しいものだった。
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他にも梅や鶴などを模った上生菓子も堪能して、いい正月を迎えることが出来た。ありがたい限りである。

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より以前の記事一覧